Spicy Sofi、Boeing 737のコックピットパネルでAbleton Liveを演奏
パリのプロデューサーによる「SOFI AIRLINES」のショーは、航空機のハードウェアとカスタムPythonコード、そして3D映像をライブでプレイするチュニスのビジュアルアーティストで成り立っている。
パイロットの頭上にあり、燃料、照明、防氷、電気系統を司るBoeing 737の実物大オーバーヘッドパネルが、Ableton Liveでトラックを起動するコントローラーになった。作り上げたのはパリ拠点のプロデューサー、Spicy Sofi。彼はこのリグを、オーディオビジュアルショー「SOFI AIRLINES」のために製作し、Magnetic Magazineの「How It Was Made」シリーズで詳細を語っている。
Sofiはチュニスとパリにルーツを持ち、コレクティブMorninglightの共同設立者でもある。通信エンジニアとして訓練を受け、のちに複雑系システムのアーキテクトとして働いた経歴を持つ。コックピットは音楽プロジェクトである前に、まずシステムの課題として捉えたという。セットはプログレッシブハウス、エレクトロ、アシッド、ブレイクビーツを横断し、搭乗、タキシングと離陸、巡航、乱気流、降下、着陸という1回のフライトとして構成されている。ショー全体の長さは45分から1時間。
ハードウェア
最初に手を付けたのはオーバーヘッドパネルだった。Sofiは元のインターフェイス基板を、オープンソースのコックピット用ファームウェアMobiFlightを動かすArduino Megaボード4枚に置き換え、スイッチ、ライト、ディスプレイはすべて元の位置のまま残した。続いてハードウェアが送出するメッセージをリバースエンジニアリングし、Ableton Liveへつなぐ独自のPythonブリッジを書いた。約6か月の実験を経て、パネルはセットの一部になった。
スイッチはトラックの起動とミュート、エフェクトのアーム、シーンの起動を担う。接続はMIDIとOSCによる双方向で、警告音のstemが鳴れば対応するアナンシエーター(警告表示灯)が点灯する。ウェブベースの小さなマッピングツールを使えば、ギグの前に任意のコントロールを数秒で割り当て直せる。
2本のスラストレバーはロングストロークのフェーダーとして機能し、フィルターのカットオフ、レゾナンス、ドライブ、オシレーターのデチューンといったシンセのパラメーターにマッピングされている。リズムを受け持つのはAirbusのサイドスティックだ。ボタンでドラムとロボティックなシンセのループを起動・切り替えし、スティックは2軸でフィルターとエフェクトをスイープする。どちらもフライトシム用のThrustmaster TCA Airbusユニットで、ツアーに持ち出せる軽さとコンパクトさが選定理由だった。Sofiはこれらを実機から回収したパーツに置き換えたいと話しており、本来なら廃棄される退役機の装備について、航空業界の関係者と話を進めている。
無線パネルは3Dプリントで製作した3モジュール構成(VHF COMM、NAV、トランスポンダー)で、Boeingのユニットをモデルに少し簡略化してある。8基のエンコーダーと14個のスイッチで、3つのAbleton Audio Effect Rackを操作する。ボーカルやスタブ向けの帯域制限とクラッシュをかけるVHF Comms、巡航パートの長いリバーブとディレイを担うNAV Space、トランジションでスタッター、リピート、ビット削減を行うATC Glitchだ。
唯一の現代的なコントローラーがMelbourne InstrumentsのRoto-Control。モーター駆動のノブは、トラックやデバイスを切り替えると現在値へ動くため、値が飛ぶことがない。
サウンドエンジンとソフトウェア
すべてAbleton Live 12上で、4つのインストゥルメントからライブ演奏される。うち3つは、クラシックなデジタルシンセのDSPチップをエミュレートし、オリジナルのファームウェアを読み込むオープンソースプロジェクトThe Usual Suspectsのもの。Roland JP-8000のROMを動かすJE-8086、Access Virus BのROMを動かすOsirus、Waldorf Microwave II / XTをカバーするXeniaだ。4つ目はArturia Pigments。全パッチの主要パラメーターをカタログ化し、同じスロットルとサイドスティックのコントロールに割り当てている。
コードはモジュール構成で、各パネルが独立したモジュールになっている。1つのオーケストレーターがすべてのインターフェイスカードを読み取り、入力をAbleton向けのMIDIとOSCに変換する。逆にAbletonの状態はAbletonOSC経由で、ライト、ディスプレイ、ゲージへ返される。挙動は設定ファイルに記述されており、ショーの内容を変えるときは配線ではなくファイルを編集すればよい。SofiはUSB HID、MIDI、OSC、WebSocketをネットワーク回線のように扱い、メッセージレートを制御し、デバイスは自動で再接続、パネルが復帰すれば状態を再同期する。
コントロールとオーディオは分離されている。コックピット側はすべてUSBで、オーディオは通さない。サウンドはMacBook(M4 Pro)からApollo Twin Xを通じて1系統のステレオペアで出力されるため、パネルが落ちても音楽は止まらない。
チュニスからのビジュアル
ビジュアルアーティストは会場にいない。チュニスのスタジオFMRXRの創設者Haïfa Becheikhが、チュニスから映像をライブでプレイする。Sofi側のNode.jsブリッジがAbletonのOSCメッセージをWebSocketストリームに変換し、そのストリームがテンポ、シーンの起動、レバーの位置、機内アナウンスといったパフォーマンスの構造化データとしてパリから送られる。
このデータが動かすのが、ウェブブラウザ上で動作するリアルタイム3D世界「SPICY AIRPORT」だ。飛行モデルを持つSOFI AIRLINESの機体、空港、クラブに改装されたキャビン、OpenStreetMapから再構築したパリが収められている。Sofiのサイドスティックが画面上の機体をバンクさせ、ロールさせる。Abletonのシーン名はカメラワークのトリガーになり、DROPでレンズが寄り、BREAKでフォーカスが引き、BUILD UPでフレームが引き締まる。
Becheikhが操るのは、ブラウザ上のVJコンソール「FMRXR TOWER」。ショットの選択、ドローンの操縦、天候の指定、Sofiのブースへのキュー送信を行い、すべての操作はSofiの次のビート、1小節、8小節のいずれかにクオンタイズできる。各カメラはFull HDでTouchDesignerへレンダリングされ、そこでFMRXR TDMixerのジェネラティブGLSLエフェクトと重ねられる。このミキサーの複製がパリのプロジェクター脇でも動いており、彼女が開発したプラグインFMRXR BordersSyncで同期されている。BordersSyncはTouchDesignerコミュニティ向けに、近日Patreonで公開予定。
地中海を越える映像はない。ショーは1秒あたり約25通の小さな署名付きメッセージとして届き、各都市がそれぞれ自前で映像をレンダリングする。彼女の操作は、パケットが届くたびに発火するのではなく、Sofiの小節に合わせてスケジュールされる。「Sofiがデータを送り、私が世界を送り返す」とBecheikhは語る。「映像は海を越えさせないと、早い段階で決めた」。
ブースには、パートナー製のLEDディスプレイ「Flight Wall」が置かれ、会場上空を通過する実際の便を、コールサイン、経路、空港とともに表示する。SofiはDJのようにフロアへ向き、パイロットのようにコックピットへ向き合ってプレイする。大型のツアー用ミラーにより、観客は彼の顔とパネルを同時に見ることができる。
次の構想は、Sofiが「Jam Mode」と呼ぶもので、実際のフライトデータが彼とともに音楽を演奏する。JAMレーダーはすでに会場周辺のトラフィックをプロットしている。これを音楽的な入力に変える計画で、たとえば便が空域に入るとフィルターが開き、高度や速度がサウンドを形作る、といった使い方を想定している。